枕草子は、平安時代、清少納言によって書かれた日本最古の随筆(エッセイ)です。ほとんどの方は「春はあけぼの…夏は夜…」は聞いたことがあるかと思いますが、それはいわゆる最初の一段で、実際には約300章段にも及ぶ超大作です。
この枕草子、古いエッセイだからと言って侮ってはいけません。今を生きる私たちが読んでも、その内容には共感する部分がとても多く、特に女性にとっては「それ分かる~っ」という内容が盛りだくさんだと思います。清少納言は有名な歌人の娘という才も備わっており、その表現方法にも面白さがあります。
約300にも及ぶ章段の中には、「春はあけぼの~」から始まる四季を綴ったものから、当時の恋愛事情や様々な人間模様まで、清少納言が生きていく中で感じたことが細かに描かれています。
今回は、その中から第26段「にくきもの」をご紹介したいと思います。“にくい”という言葉は、昔と今では少し意味が違い、「むかつく~」とか「イラっとする」といった、“憎い”よりはもっと軽い言葉として使われていました。よって、これからご紹介するものも、そういった感覚で清少納言が言っていると思ってください。
第26段「にくきもの」は、清少納言が不快に思う事例を集めた章段です。本当にたくさんあって、どれも「分かる、分かる!」と言えるものです。例えばこういったもの。
清少納言が思う、マナーの悪い人
- 急いでいる時にやって来て、長話をするお客
- 人が話をしているときに横から口出しして、いい気になってまくしたてる人
- 新参者なのに、先輩を差し置いて、物知り顔で差し出がましいことをいう奴
- 昔の彼女の名前を出して褒める男
- 酒を飲んでわめき、口の周りの涎をぬぐい、髭がある者は髭を撫でまわし、酒をほかの人間に無理やり飲ませるような男
- 寒い日に火桶の火、炭櫃(囲炉裏)などを独り占めするような男
いかがでしょう。今もこういう人、普通にいますよね(笑)。特に、自分が急いでいるときに話しかけられて、ずーっと話をする人。勝手に盛り上がってしまって、いつ切り出そうか…みたいなこと、誰しも経験があると思います。先輩がいるのに、後輩が調子に乗っていて、気マズイなーという空気になる感じ、ありますよね。KYってやつです。
ちなみに別の章段では、子供のしつけについても喝を入れています。4,5歳くらいのいたずら盛りの子供が散らかしたり、モノを壊したりする。にもかかわらず、母親のほうは、大人相手のおしゃべりに夢中で、「そんなことしちゃいけませんよ」「壊してはいけませんよ」という程度で、しかも笑顔で言うのだから、それこそ母親までにくらしくなる。

さらに別の章では、言葉遣いが乱れている人にも触れています。ご主人に対して、ぞんざいな言葉遣いをするのはとてもみっともない、と。清少納言は、特に言葉遣いに敏感だったようで、例えば仲間内で話をしているとき、近くに目上の人がいた場合は、タメ口でしゃべるのはダメだと言っています。なぜなら、その方を疎外しているような感じになるし、言葉も悪い。当時は、“私(わたし)”を砕けた言い方で「まろ」と言っていましたが、目上の方がいる近くで、「まろは~」とかそういう言葉は使ってはいけない、みっともないと言っています。
非常にマナーにはうるさい?人だったようですが、でも言っていることはすごく正しいですよね。とにかく、今読んでも共感を持てるといいますか、昔と今ってそんなに変わらないんだなぁと感じさせてくれます。私自身、反省しようと思ったこともたくさんありましたし…。
今回は清少納言が思う「こういう人はダメ!」というのをご紹介しましたが、もちろん愚痴だけが綴られている本ではありません。「こういう人は素敵!」というのもたくさん紹介されています。
古文なので原文を読んでも理解するのは難しいですが、現代語訳されている本などもたくさんあるので、そういったものから是非理解を深めていただければと思います。1000年以上も前の本から学べるというのも、面白いものです。