“筆”文房四宝

朝、窓をかけると金木犀の香りがふわっと漂う。家から駅までの道のりも常に香ってくるのは、この町の街路樹に金木犀が多いからだ。 九州の実家の庭にも背丈をゆうに超える高さの金木犀と銀木犀が植えられていた。その香りがしはじめる季節は、吐く息が白くなる頃だったように思う。小さく可憐だが強さのあるオレンジ色の花(花弁)をずっと楽しめないものか?と、製氷機に入れて凍らすチャレンジをした小学生の私は、母から、何に使うの?と問答され、優しく諭されたことでその夢は叶わなかった。私が今住む町で、10月に入る頃の風物は、私の肌感的には、秋を通り越して冬の入り口の記憶である

ということで、今日は文房四宝のお話。(笑)
というのもmomomoで年賀状素材を作成する企画がございまして、日本人なら「お年賀=筆文字」の公式で、筆文字を書く運びとなりました。季節のイベントサービスを提供する商いは、プロジェクト内容により様々ですが2カ月~4カ月前には稼働しています。クリスマスに向け!お正月に向け!バレンタインに向け!お雛様に向け!etc… 休む間がナイ!とも、そのサイクルが楽しい!とも、日々飽きナイ!ともいえそうです。「飽きない」は「商い」なのだなぁと思う今日この頃。

冬真っ只中、お年賀筆文字、筆の話を致しましょう。休眠状態の書道用品を丁寧に整理しなおす機会ができたので「書をはじめよう!」と興味を持つ方へ「まずは形から!」ということで、必要な道具を紹介してみようと思います。

文房四宝(ぶんぼうしほう)

書を学ぶものにとっての必需品である筆・墨・硯・紙をいいます。「文房」とは「文人の書斎」のことであり、そこで使用する諸具のことを文房具といいますが、そのなかでもこの4つの品はとくに大切なものとされました。 また、中国文人の文房趣味のひとつで筆墨硯紙の四つを指します。 別に文房四友(ぶんぼうしゆう)という言い方もあります。 これらは文房具の中心であり、特に賞玩の対象とされていました。この4点には、重んじられる順位も決まっており、

・硯 ・墨 ・紙 ・筆

の順となります。なぜかわかりますか?硯は、使用しても消耗することが少なく、骨董価値が高いからです。次に墨・紙という順。特に筆は、新しくないと実用的でないので骨董的な価値に乏しく、愛玩の対象にならなかったという記録があります。筆は一番の消耗品なのです。
唐代に硯や墨の優劣について論じたという記録があるのですが、南唐文化の影響を色濃く受けた宋代以降に文房四宝が語られることが多くなります。
硯は端渓硯が最も有名で、、、と、ここで語り始めると石の産地や工芸硯、硯を研ぐための硯研ぎ石のこと、墨すり機の硯の話などなど、マニアック極まりない方向に行くので、仮止めとします。 今回は、一番気軽に取り入れやすくてわかりやすい“筆”についてです。

“筆”の故事ことわざ

【弘法筆を選ばず】

意味:本当の名人は、道具の善し悪しなど問題にしないというたとえ。

【弘法にも筆の誤り】

意味:どんな名人・達人にも、時には失敗することがあるというたとえ。

弘法は、能書家として知られる弘法大師(空海)ですね。平安時代初期の僧で、真言宗の開祖。
彼が能書家として名を馳せる作品は、多くの人々を魅了してきましたが、それが真筆ではないという説もあります。とはいえ、これほどの評価を後世に継承しているのですから、相当な腕前だったことが想像できます。実際に私も、空海の作品と言われている風信帖を拝見した際の感動が、これまでの人生でみた諸作品の中で一番だったように思います。弘法は筆を選ばないと言いますが、私たちは筆を選びましょう。 実際に筆を紹介していきます。

筆の種類と選び方

筆の種類と選び方

自分のパフォーマンスにあわせた筆の好みは、人それぞれです。
毛の硬さ、長さ。持ち手の太さはとてもわかりやすい条件と言えます。動物の毛が主流ですが、羊、狸、鼬、馬など、その毛の種類により更に分類され、パフォーマンスの目的ごとに表現できる(しやすい)筆が変わってきます。 例えばこちらは、羊毛、竹の持ち手(柄)。半紙に1文字かに文字のサイズに適しているので、かなり愛用していました。

最上羊毫

明記は、上から「五号」「最上羊毫」「越塚作」となります。号数はサイズ、最上羊毫は良い羊の毛、越塚で作ったことがわかります。価格は、2万円~5万円くらいだったでしょうか。一生懸命思い出そうとしても、曖昧すぎる記憶の自分が怖い。光陰矢の如。。。

気を取り直して、ヤフーオークションで検索してみたところ、平均落札価格51,127円でした。
当時、新品を5万円で購入した気がしてきました。(本当かな?)
記憶が曖昧なのは、加齢だけではなく、他にも思い当たる理由がございます。大学時代の書道仲間は、越塚作の筆、60万、100万、150万くらいまでのサイズ違いを、何種類もだとか、同じ筆を何本も(消耗品の為)所持していた人がチラホラいたので、2万も5万も低価格帯。
紙で例に出すなら、1枚3万円のA4サイズの良質な紙を作品制作時に使用する人がいる世界なのです。嗚呼、奥深い書の世界。

筆の手入れ

このような職人さんによって作られた丁寧な手仕事の筆は、大切に扱われ(私も大切にはしておりましたよ。ある程度かもしれませんが。。。汗)基本的に粗悪な墨汁など使うのはもってのほかで、成分の明確な良質な墨の使用のみが許されるのでした。(ちょと大袈裟。でも本当のこと。)

使用後に墨を洗い流す際には、根元に墨が残ってしまうため、口をつけて吸いだして清めるのです。唇、口の中、それなりに墨がついて黒くなりますが、筆を大切に扱うということはそういうことでした。綺麗に洗い清められた筆は、風通しの良い場所に吊るして乾かし、次の出番を待つのでした。

ちなみに、「越塚作」の下のシールは、同じ明記の筆を持っている仲間と混在しないように貼ったミスタービーンシールです。剥げかけているのが歴史を感じますね。仮名用の小筆にもクローズして紹介しようと思っていましたが、ミスタービーンが「もういいよ」と言っているので、このへんで。その代わりと言ってはナンですが、切り口を変えてJapanese Traditional Colorを少しご紹介します。

Japanese Traditional Color

Japanese Traditional Colo

日常で簡単便利、気軽に使える筆ペンが、多色展開されています。筆に慣れるための遊びはじめにはもってこいではないでしょうか。この筆を使って書かれている写真左隅の文字は、アルファベット圏の友人にプレゼントしたところ、とても喜んでいただけ「このペンで手紙を書くね!」と、届いた手紙の序章です(掲載は本人の了承済)。この調子でA4にビッシリ。改行なしなのがニクイところですが、拝見してとても感動しました。感動の理由はいくつもありますが、筆文字の力を改めて感じられた出来事のひとつです。

筆は筆でもメイクブラシ

書道筆の需要が年々減っている昨今、老舗として有名な筆メーカーが化粧筆の販売に主軸を置くことで大変成功されています。 私も昔からお世話になってきた一人、熊野筆です。 デパート、ふるさと納税のお礼の品、機内販売、某ブランドコスメブラシ製造元やコラボ、しばしば目にします。 熊野筆の歴史とその技術力で生まれたメイクブラシの数々は、世界での評価も高く、技術力日本の代表。 技術力と企画力で、変化し続ける企業体制が、発展し続ける強い企業の条件だと思います。

“筆”を通じて思うのは、風化しないものの大切さ。その背景には、丁寧な分析や試行錯誤があります。 丁寧な仕事には、時間がかるものです。効率は大切ですが、良いものは時間をかけただけの良さがあることが多いと思います。

丁寧なWEB制作を、適正価格でご依頼いただけるようお願いいたします。と、締めてみます。
個人書道レッスンのお問い合わせも、あわせて受け付けております。
お草々さま。

参考文献
蘇易簡『文房四譜』より、青木正児『琴棊書画』東洋文庫、1990年、村上哲見『中国文人論』汲古書院、1994年、ヤフーオークションの検索結果

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